”時雨”は地域限定?時雨と呼ばれる雨|水墨画で描く霎時施(こさめときどきふる)

こんにちは。
水墨画家の八束徹です。

霎時施(こさめときどきふる)とは、
小雨がしとしと降るという意味です。

この「霎(こさめ)」は、小雨ではなく、
晩秋から冬の雨を代表する時雨のことです。
そんな時雨は誰もが知る雨の呼び名ですが、
実は日本中どこにでも降るものでは
ない
のです。

この記事では、その霎時施、
そして今回描いた水墨画、

について話していきます。

10月28日から11月1日頃の七十二候は、
霜降次候 霎時施(こさめときどきふる)です。
二十四節気では、霜降(そうこう)
その霜降を3つに分けたうちの 2番目(次候)です。

地域限定??時雨とはどういう雨のことを意味するのか?|霎時施(こさめときどきふる)

時雨が降る地域とは?

この小雨とは、
時雨(しぐれ)のことになります。

その昔、時雨月と呼ばれた陰暦10月は、
今の新暦にすると、ひと月飛んで11月頃
時雨は、ちょうどこの晩秋の
冷え込みの中で見られる現象です。

秋の終わりから冬にかけて、
突如降り始める雨。

私達はそれを風流に
時雨と読んだりしますが、
実は時雨と名付けられた冬の雨は、
どの地域にでも降るわけではありません

時雨とは主に盆地で見受けられるもの

京都や福島、長野などの山間部で
北西の季節風(木枯らし)が
山にぶつかり、上昇し、
そこで生まれた雲が
降らせる雨のことなのです。

そんな地域限定の時雨ですが、
和歌や俳句に詠まれたことで
盆地のない関東平野などの他の地域にも
広く知られるようになりました。
やがて人々は、秋冬の通り雨のことも
その情緒に寄り添って時雨と呼ぶようになり、
その風情を楽しむようになったのです。

時雨にまつわる言葉たち

地域限定の雨、時雨
暦はまだ秋ですが、ほとんどが
冬の季語になっています。

そんな時雨にまつわる言葉を、
いくつか拾い上げてみました。

(*カッコ内は、季語)

冬の季語になっているもの

▶︎初時雨(冬)
その年になって初めての時雨のこと。

▶︎片時雨(冬)
片方の空では時雨が降り、もう片方では
青い空が広がっている様子。

▶︎村時雨(冬)
狭い範囲にひとしきり激しく降り、
通り過ぎて行く時雨のこと。

▶︎朝時雨、夕時雨、小夜(さよ)時雨(すべて冬)
朝に降る時雨、夕方に降る時雨、
夜に降る時雨のことです。

冬以外の季語のもの

▶︎秋時雨(秋)、春時雨(春)
秋や春に降る時雨に似た雨のこと。

▶︎蝉時雨(夏)、虫時雨(秋)
実際の雨ではなく、それらの鳴き声を、
降り注ぐ雨音になぞらえたもの。

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雨に関する言葉はたくさんありますが、
時雨だけでもこれだけあります。

最初に話した時雨月も、
時雨から生まれた言葉です。

こういった言葉達はみな、
自然の音がもっとはっきりと
聞こえていた時代だからこそ
生まれたものだと思います。
なので、現代の私達の暮らしには
馴染みが薄いかもしれません。

時雨は通り雨のように過ぎていきます。

しかし、これらの風流な言葉達には、
通り過ぎずにそこに残っていて
ほしいもの
です。

水墨画で七十二候を描く|霎時施(こさめときどきふる)

この時期の雨は、冷たい風とともに
より一層の寒さを連れてきます。
冬本番はまだこれからですが、
晩秋のこの雨の寂しさに、
早々に気持ちが萎えてしまいそうになります。

時雨」といっても雨をそのまま描くのは
なんだか寂しかったので、
時節に合わせて、秋の薔薇を描きました。

すでに疲れている朝の憂鬱に
追い討ちをかけるような雨の日。
電車のつり革につかまりながら目を閉じる。

押し出された重い足取りの私の目に
ふと飛び込んできた美しい世界は、
今までどこかに隠れていたわけでもない、
私が見失っていただけの世界でした。

それは路地で見つけた、秋の薔薇。

二輪の薔薇には
「この世界に二人だけ」
という意味があるそうです。

人恋しくなるこの季節に、
そんな花言葉を添えておきます。

▶︎静かな手紙をお送りしています
ざわつく日々に、墨の余白と灯火を。