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漂う孤舟の「孤舟」とは?私の絵の前提にあるもの
ここでいう孤舟とは、
暗い海を行く「ひとり乗りの舟」のことです。
私は、人は根本的に
独りだと思っています。
自分の舟を動かすのは自分自身です。
と言うと「人は孤独じゃない」
と反応される方もいらっしゃると思いますが、
これはそういう意味じゃないのです。
ここでいう独りとは、
ひとりぼっちで寂しいとか、
仲間がいないとか、
逆に友達なんかいらないだとか、
拗ねたりふてくされたりも含めた
そういう概念ではなくて、
「根本的にひとり」
なのだという考えのことです。
たとえ、どれだけ人に囲まれている
人気者の友人でも、
根っこの部分では「独り」だということです。
その根っこの部分は、
まるで暗い海のようであり、
その真っ暗い海を行く私達の舟は、
全てひとり乗りなのです。
それぞれがそれぞれの舟を
独りで漕いでいるのです。
しかし生きていくには、
それだけでは足りません。
絶対的に足りませんよね。
だから私達はそのそれぞれの1人乗りの舟を
互いに並べて並走しているのです。
そうして他の舟(家族・友人・恋人など)と、
手を貸し合い、肩を叩きあい、
慰め合い、応援し合い、
泣いたり笑ったりすることで、
舟を沈めずに暗い海を進んでいけるのです。
これが「希望」や「夢」になるのです。
生きるということは、
他人の舟に乗って漕ぐのをやめる、
さぼる、
楽をする、
ということではないのです。
「孤独」と「独りよがり」は別の話
「人は一人で生きているわけではない」
これは当たり前のことですよね。
今生き残れているということは、
必ず誰かの助けがあるということですから。
舟が沈まずにいられるのは、
自分は一人で乗り越えたつもりでも、
必ず誰かしらが気づかないところで
この暗い海を並走してくれているから、
応援してくれているから
なのです。
これはキャラ的なことなのですが、
私は大勢で集まったり
群れたりすることが苦手というか、
無意識に独りで行動するほうを
選びがちなタイプです。
遊びの予定を詰め込むのも苦手です。
とはいえ別にこれを基準にさっきから
人は独りだのと語ってるわけではないのは、
もうわかってもらえていると思います。
誰の舟とも並走したくないと
言っているわけではありません。
もしそうだとしたら、
それは「独りよがりな生き方」
ということになってしまうし、
私が絵を通して伝えたいのは
そういうことではありません。
また一方では、独りでいることを、
うまく生きれない負け犬
のように言う人もいます。
しかし、一人が好きな人間だろうが、
仲間に囲まれている人間だろうが、
人とうまくやれない不器用な人間だろうが、
どんな人間であれ、
同じように独りで立つものなのです。
自分の人生という舞台で。
大好きなあの人も、
大嫌いなあいつも
それだけは同じなんです。
暗い海を照らす灯台と水墨画の無限の可能性
ここまでなんでこんな話を
してきたのかというと、
それらを表現するのに、
水墨画が最適なものだからです。
それらを伝えるために、私は、
自ずと水墨画の世界に
引き寄せられたのかもしれません。
ぼんやり見える、
遠くの灯台が放つ明かり。
暗い海をゆくあなたの孤舟の
行先を照らしてくれる、明かり。
それは元気をくれるもの、
愛を学ぶもの、
この世界で道を間違えないためのもの。
その明かりは
初めからついていたのではなく、
誰かがあなたのために
(たとえば家族が、友人が、恋人が)
灯してくれたものであり、
だから途中で航路を見失うことはない。
逆にあなたが明かりをつけてあげたなら、
愛しい人、大事な人が遭難することはない。
そしてその人はその明かりを頼りに
また漕ぎ進めていく。
あなたと同じように。
この広大な人生という海は
初めから明るいのではなく、
誰かに灯されて、
誰かを灯して、
明るくなっていくのです。
そしていつかそれが
ふっと消えてしまうまで、
私達はその灯火を
頼りに進んでいくのです。
そんな、それぞれの舟と
それぞれの海を灯す優しい明かり。
水墨画はその一片を担うことが
できるものだと私は信じています。
水墨画は、基本的に
墨の黒と紙の白(余白)を使って描くものです。
そのシンプルな二つの武器が、
逆に迷いを断ち切りながら
深い世界を生み出します。
それがその「灯台の灯り」のように、
孤舟に乗るあなたの心を照らすものになる。
そんな水墨画の無限の可能性を
私は知っています。
私自身が水墨画を描くことで、
生きる力を取り戻したのですから。
自分の中にある「独り」
変えられない「独り」
それは憎むものではなく、
愛するべきものなのだと。
そうすれば人生は
より豊かになっていくのだと。
私の夢の果ては、私が描く水墨画が、
あなたにとっての
その「灯り」になることです。
あなたに灯りが足りない時に、
私の絵が少しでもその代わりになるように、
私はこの筆で、この孤舟を漕ぎ続けます。
そうして私は、
あなたに私の絵が届く場所で、
漂い続けています。