自分の心のヒダを撫で続けた日々
18歳の時に、半年で板橋区の会社を辞めて
寮を出た私が引っ越した場所は、大田区でした。
地理的に、北の端から南の端に移動した形になります。
この私の習性というかなんというか、
引越しに限ったことではなく、私はわざわざ
知り合いのいない場所へ行く癖があります。
そこで新しい仲間が開拓できるほど器用でもないし、
そういう開けた心で生きているわけではないくせに、
知らない場所が、おもしろそうだと思っているんです。
不思議ですよね?
知り合いのいない場所へ行って
寂しくないのかって思いません?
そういう気持ちがないわけではないのですが、
一人でいれないわけではないし、
むしろ1人の時間も必要ですし。
時々、人と会えればそれで良かったのです。
特にその頃は。
その板橋区の会社で知り合った友人と
退職後も時々飲みに行っていたのですが、
地理的に間を取って、
新宿でよく待ち合わせをしていました。
ひとりでいる私を誘ってくれるのは、
ほとんど彼の方でした。
今でこそ、長い都会暮らしで、
新鮮さも薄れてきてしまいましたし、
わざわざゴミゴミした場所へ出かけたりはしなくなりましたが、
当時はあの作り上げられた、きらびやかで
怪しい暗闇を宿した街を酔いどれて徘徊するだけで、
感傷的にもなったし、
まだ、柔らかい心のヒダを強く刺激したものでした。
この歌はそんな都会の夜に出会ったいくつかの物語を、
映画のダイジェスト版のように繋げて綴ったです。
この頃は、そんな私でも時折感じる寂しさを、
イコール「孤独」と受け止めていました。
その受け止め方を基準としてですが、
冷静に考えたら、会ってくれる人はいるのに、
自分は孤独だと言うのっておかしな話なんですよね。
自分が望むものが満たされないと、
家族がいても、友人や恋人がいても、
「自分は孤独」だという表現を使いますよね?
側から見たら、
ひとりじゃないじゃん
となるのですが、
その人にしてみたら、
孤独(満たされたいように満たされない、
寂しいひとりぼっちな自分)
なのです。
つきつめていけば、
どのみち人はみな孤独ですし、
それは寂しいとかいう感情とは別の話です。
人はわがままです。
与えられているものが望むものでないと、
「自分には何も与えられていない」
ということになります。
けれど、そのわがままさが、人の美しさでもあって。
「欲しい愛」のために手を伸ばすことは、
やはり美しいのです。
私はこの頃まさに、そんな気持ちで生きていました。
なので、この歌はその当時だからこそ
歌えていた歌として、しばらく封印していました。
しかし最近は、それは成長過程でもあるし、
その時期の人に伝える歌として、
また歌うこともいいのではないかと
最近思い始めています。
今の私は、吐きながら朝まで飲み続けるような夜は
もう過ごせなくなりましたし、
そういう呑み方には、興味もありません。
朝焼けとアコーディオン弾き 中途半端な苛立ちと雨と痛みに 頭の中を乗っ取られて何もちゃんとは始まらない 呆れ返った顔は演技力のおかげで 期待しないようにしているんだ たいした傷も受けてないのに 夜明けまでに消してしまうことができるなら 君に何もかも全て預けてしまってもいいよ 僕が言ったことが君を傷つけたとしても それほど辛いことはないだろう 所詮つまらない弱さのせいだ 目をそらした隙にすっといなくなってもいい 僕はもう少しこの雨の中を歩くから 煙に巻かれて 見えなくなったものは 悲しさでも寂しさでも切なさでもないだろう 正しいものも間違ったものもない こんな独りよがりの孤独の日々 看板の向こう側では契約が交わされ 落ち着いて生きる気を失わせようと企んでいる やがて雨は誰かの独り言に拍車をかけて 過ぎ行く時間を狂わせて 誰の泣き声をもかき消してく じっと見つめて信じたものはとても尊く きっと死ぬまで同じ形をして守られていくんだろう 薄汚い路地裏で無神経に見ていたのは 退屈そうな顔をした女と ひび割れた青いマニキュア 寂びれた公園の裏でずっと泣いてたんだ あの朝焼けとアコーディオン弾きの後ろ側で 煙に巻かれて 見えなくなったものは 悲しさでも寂しさでも切なさでもないだろう いちいち誰も気にかけたりしないさ こんな独りよがりの孤独の日々 夜は何の警告もなく幕を降ろすから 本気で死にたくなるような苦しみなんてない 傾いた舗道の上をさまよう亡霊達が 何を忘れてきたのかさえ 思い出せなくさせる 窓辺にもたれてどうにか見下ろせたものは 僕に何一つ大切なものを与えてはくれなかった このままびしょ濡れの服を着て帰っていくよ 君が欲しがっていた種類の歌をいくつか拾って 自分のためだけの答えにしがみついたままさ 何度だってその手前で笑ってみせるだろう 煙に巻かれて 見えなくなったものは 悲しさでも寂しさでも愛しさでもないだろう いちいち君だって気にかけたりしないだろう こんな独りよがりの孤独の日々 煙に巻かれて 見えなくなったものは 悲しさでも寂しさでも誇りでもないだろう 正しいものも間違ったものもない こんな独りよがりの孤独の日々