はじめまして。
水墨画アーティストの八束徹です。
とある秋晴れのうららかな午後。
日本水墨画美術協会からの依頼で、
師匠小林東雲先生とともに、
とある小学校へ
水墨画の出張授業に行ってきました。
ちゃんと「学校」に入るのが
高校卒業以来というくらい
子供と縁のなかった私が、
思いがけずそんな子供達の真剣な姿に
胸を打たれてしまったというお話です。
この記事では、
集まった生徒さんとの授業、
子供達の感性への感動、
教える楽しさ、難しさなどについて
話していきます。
目次
書道用具をかかえた生徒さん達との対面
![](https://yatsukatoru.com/wp-content/uploads/2020/10/e0242.jpg)
最寄駅からさらにバスに揺られて、
目的の小学校にたどり着きました。
他のお手伝いの先生方と合流後、
校長室で校長先生にご挨拶。
さっそく準備のために、
体育館へ向かいます。
すでに生徒さん達が、
それぞれの書道用具を持って
待っていました。
今回教える生徒さんは6年生。
担任の先生の呼びかけに応えて整列します。
あとから校長先生に聞いたのですが、
その担任の先生が今回の教室を開きたいと
申し出たとのこと。
生徒さん達を指導する姿には、
厳しさの中にも
子供への深い愛情を感じました。
私達も、授業内容を書いた紙を
ボードに貼り付けたり、
こちら側で用意した筆や
和紙を配ったり。
準備を進めて行きます。
集まった生徒さん達が、
小脇に抱えたそれぞれの書道用具。
「この道具で絵も描ける」
この教室が終われば彼らは
それを知ることになるのです。
そう思うだけでワクワクしました。
いよいよ授業スタート
子供達の学びへの意欲
![](https://yatsukatoru.com/wp-content/uploads/2020/10/e0239.jpg)
さあ、いよいよ授業開始です。
まずは師匠が水墨画の歴史を
簡単に話します。
いきなり堅苦しい話から
始まったかのようですが、
この水墨画教室は
歴史の授業の延長とのことで、
水墨画を日本に広めた人は
誰かわかりますか?
の師の問いに、
「雪舟!」
とみんなしっかり答えていました。
立派ですね。
そして墨のすり方、硯(すずり)の使い方、
淡墨(たんぼく=薄い墨)の作り方、
和紙に淡墨で描いた時に起こる
水墨画独特の効果などを
教えていきます。
私を含めお手伝いの先生方は、
その間、生徒達のところを回り、
それぞれのやり方を教えていきます。
うまくできる子もいれば、
すぐには要領を得ない子もいます。
みんなそれぞれです。
それでも上手にやりたくて、
いろいろ質問してきてくれました。
やり方を深く話してしまうと
今回の授業だけでは時間が足りないですし、
このくらいでっていう加減が
難しかったですね。
ちなみに面白い効果とは、
![](https://yatsukatoru.com/wp-content/uploads/2020/10/e0243-1.jpg)
これです。
淡墨に淡墨を重ねると、
あとから描いたほうが下にもぐります。
点が先に描いたものです。
「うれしい」「たのしい」「かなしい」「いかり」|墨で感情を伝える
![](https://yatsukatoru.com/wp-content/uploads/2020/10/e0236.jpg)
次は、今覚えた淡墨と濃墨を使って、
喜怒哀楽の感情を、
和紙にぶつけていきます。
目に見えるものを書くのではなく、
その心の動きを墨で表現するのです。
まず師匠が用意した見本を見せるのですが、
これは私達でも難しい表現方法です。
どう教えればいいんだろうかと思いながら
生徒さん達の様子を伺っていました。
そしてこれが今回一番の衝撃
だったのですけれど、
みんなもれなく描けているのです。
それが「嬉しい」なのか、「悲しい」なのか、
パッと見てわかります。
その後もう一枚、
うれしいとかなしいの
どちらか好きなほうを描き、
隣同士見せ合い、
それがどちらを描いたのかを
当て合うゲームをしたのですが、
それもだいたいみんな
当たっていました。
それを描けるのも、
それが何がわかるのも、
感受性の柔らかさがあってのことです。
脱帽でした。
余談ですが、
「悲しい」を選んで描いた
生徒さんのほうが多かったのも
印象に残りました。
まあ、「悲しい」のほうが
より強い感情のように思えるから
選んだだけかもしれませんね。
師匠の実演と作品への挑戦
![](https://yatsukatoru.com/wp-content/uploads/2020/10/e0237.jpg)
師匠が壇上で本格的な水墨画を描き始め、
生徒達は真剣なまなざしでそれを見ていました。
水墨画のライブパフォーマンス自体、
なかなか見れるものではありませんし、
とても新鮮に映ったと思います。
その間、私達は清書用の紙を一枚ずつ配ります。
今日の最後の授業は、
今回習ったことを踏まえながら、
それぞれが好きなものを一枚描きあげること。
師匠の描いた松の絵を
真似て描く生徒さんもいれば、
自分の描きたいものを描く
生徒さんもいます。
子供の感性で描かれた絵は
それはそれでひとつの完成品ですから、
それをなるだけ壊さないように
教えてまわりました。
やり方を少し教えたら
練習用紙に一生懸命練習する子もいれば、
一方では、一気に本番を描きあげたり、
何を描くか決められなかったり、
妙にセンスの高さを感じたり、
うまくいかなくて
悩んでいる姿もいじらしくて、
白黒だけだと思われがちな水墨画ですが、
それぞれがそれぞれの個性を放って、
ひとつひとつ違う色が
そこにはありました。
これからもまだまだたくさんあるはずの
大切な思い出のひとつとして、
その絵も手元に残ることを
願うばかりです。
教室を終えて
![](https://yatsukatoru.com/wp-content/uploads/2020/10/e0238.jpg)
教えに行くと、やはり反省点も出てきます。
自分もさらに学ばなければ
という気持ちになりました。
もっと上手に教えられるようになるためには、
もっと上達しなければなりません。
道に終わりがないことは、
嬉しいことでもありますけれども、
人の想いに応えるということは
簡単ではないことも改めて感じました。
まとめ
今回話したのは、
- 生徒さん達との出会い
- 授業内容について
- 教室を終えての思い
です。
帰りの電車に揺られながら、
こんな想像をしていました。
生徒さん達が今日の教室のことを
担任の先生や友達、
家族などに話している姿です。
「楽しかったよ!」
「またやってみたい!」
そんなふうに言っていてくれたら
いいなあ、と。