硯の世界を知る|硯の種類とその歴史を紐解く

はじめまして。
水墨画家の八束徹です。

硯(すずり)は固形墨をするための
道具です。

有名なものは端渓硯、雨畑硯など。

硯はその品質によって、
墨の発色、すり味が大きく変わってきますが、
硯は安い中古品から
骨董品レベルのものまでピンキリです。

この記事では、
硯の名称から種類や歴史(唐硯、和硯)、
金額、量産品の硯、
硯の手入れ、
について話していきます。

硯の各部名称

このように部位について
それぞれ呼び名がありますが、
だいたいは「丘」とか「海」とか、
鋒鋩(ほうぼう)とか、縁とか、
そんな呼び方をしますし、
普段使用する時に使うのは
それくらいです。

硯面(けんめん) – 硯の表側全体のこと
硯隠(けんいん) – 硯の裏側全体のこと
硯側(けんそく) – 硯の側面
硯縁(けんえん)・硯の縁
墨池(ぼくち)・池・海 – 墨がたまる
くぼんでいる場所
落潮(らくちょう)・波止(はと) – 墨堂と墨池の間の
坂になっている場所
墨堂(ぼくどう)・ – 墨をする場所
鋒鋩(ほうぼう) – 丘にある、
目に見えない石の凹凸。
これがあることで
墨をすることができます。

硯の種類

ブランド品としての硯

硯には中国製のものと
日本製のものがあり、
中国製のものを唐硯(とうけん)、
日本製のものを和硯(わけん)と呼びます。

唐硯(とうけん)の代表的なもの

端渓硯(たんけいけん)

広東省肇慶市(かんとんしょうちょうけいし)
にある、端渓(たんけい)と呼ばれる
渓谷で採石される石から作られているもの。
採石される「坑(場所)」によって、
ランクが変わります。

老坑、坑仔巌、麻仔坑、
宋坑、梅花坑、緑石坑とあり、
老坑が最高級とされています。

歙州硯(きゅうしゅうけん)

安徽省(あんきしょう)黄山市にある
歙県(きゅうけん)で採石された石から
作られていたもの。
その辺りは以前は歙州(きゅうしゅう)と
呼ばれていました。

採掘期間が短かったため、
現存するものは極めて少ないです。

桃河緑石硯(とうがりょくせきけん)

甘粛省(かんしゅくしょう)にある
チョネ県(チベット自治州)の、
桃河という川で採石された石から
作られていたもの。
端渓硯を超えると言われた硯ですが、
川の氾濫で採掘場所が
分からなくなってしまったため、
現在では作られていません。

澄泥硯(ちょうでいけん)

泥を焼いて作ったと言われている硯ですが、
当時の技術では加工は難しいと
疑問視されていたりします。

松花江緑石硯(しょうかこうりょくせきけん)

吉林省(きつりんしょう)にある
松花江(しょうかこう)という川の上流で
採石された石から作られていたもの。
清朝末期に衰退し、
現在では発掘されていません。
今、市場に出ている同名のものは、
別物と言われています。

紅糸石硯(こうしせきけん)

山東省(さんとうしょう)の
青州市(せいしゅうし)にある
黒山で採石された石から作られていたもの。
質の良い原石がとれなくなったため、
現在では作られていません

和硯(わけん)の代表的なもの

赤間硯(あかますずり)

山口県宇部市北部の
万倉岩滝の奥地で採石される
赤間石から作られているもの。

雄勝硯(おがつすずり)

宮城県石巻市雄勝町の山から採石される
雄勝石から作られているもの。
東日本大震災の被害を受けましたが、
現在は復興し、生産販売を行っています。

那智黒硯(なちぐろすずり)

三重県熊野市神川町で採石される
那智黒石から作られているもの。

雨畑硯(あめはたすずり)

山梨県南巨摩郡で採石される
「玄晶石」と言われる粘板岩から
作られているもの。

値段について

このクラスの硯は、中国でも日本でも、
それぞれの地域に根ざしながら、
伝統の製法で作られてきたものです。
なので安価では手に入りません。
手間暇かけて作られている品物ですから、
それは当然のことです。

今作られていないものは希少品ですから
当然、さらに高価です。

自然石の硯は二つ同じものはできず、
その石の眼や紋様の美しさ、
歴史、職人の腕などが
金額を上げたり下げたりします。

メーカーが販売している量産品の硯

私が初期に使っていた石の硯

セラミック製、プラスチック製のもの

学童用の書道具などにも使われています。
石と違って軽いので、墨をする際に
その硯も動いてしまいます。
使い勝手の良いものではありませんし、
墨の発色も良くないです。

石製のもの

有名なブランド品とは違い、
自然石で作られているものは
1000円そこそこで買えます。

私も初期はこの硯を使っていました。

その他の硯

陶硯(とうけん)

陶器で作られたもので
歴史は石製のものより古いですが、
陶硯より質の良い
石の硯(端渓硯)の登場により、
下火になりました。
今では、主に観賞用として
売られています。

硯の手入れ

使用後は毎回洗わないと
乾燥した古い墨が硯面にこびりついて、
新しい墨が綺麗にすれなくなります。

それでもすれなくなってきたら、
専用の砥石(といし)で鋒鋩(ほうぼう)を研ぎます。

手入れについての記事はこちら
▶︎砥石(といし)と鋒鋩(ほうぼう)【水墨画の魅力】硯(すずり)の手入れ方法

まとめ

今回話したのは、

  • 硯の各部名称
  • 唐硯、和硯などの種類と歴史
  • 硯の値段について
  • 量産品の硯について
  • 硯の手入れ

についてでした。

硯の種類とその歴史、簡単に説明しましたが、
楽しんでいただけましたか?

そんなひとつひとつの歴史の上に
美しい作品たちが生まれてきます。

▶︎静かな手紙をお送りしています
ざわつく日々に、墨の余白と灯火を。