天井を這う蜘蛛に重ねた明日
毎朝毎朝嫌々起きて、
金を稼ぐために仕事に行く日々。
カラオケ屋の店員、コンビニ、薬局。
ほとんどが上司ともめて辞めました。
たいしてケンカが強いわけでもないのに、
すぐにカッとなる性格が自分の首を締め付けていました。
ほとんど私が悪いのですが、
当時はそんなことわかっていませんから。
そんな暮らしの中で、だんだんと働くのが嫌になり、
だからといって売れる歌が作れるわけでも、
他人に助けてもらうような器量があるわけでもない私は、
日雇いのバイトでぎりぎり食いつないでいく
そんな生活をするようになります。
毎月のライブのノルマ代だけを別にして閉まっておき、
ライブの日になるとそれを財布に入れて、
ギターを背負い会場へ向かっていました。
それだけ貧しいわけですから、
新しい弦を買えない時もありました。
古い死んだ弦のままリハーサルにのぞみ、
アピアのマスターに舌打ちされたことは今でも覚えています。
これは真剣に向かい合うことを放棄した
私のやる気のなさの現れですから、当然のことでした。
歌を歌うために生きているはずが、
暮らすことに精一杯になり、
気持ちはどんどん音楽から離れていきました。
やがてそのノルマ代も用意できなくなり、
ライブをちょくちょく休むようになったり、
毎月の出演を隔月にしたりするようになりました。
それでもライブを続けていた理由の半分以上は、
東京にしがみつくためでした。
あのクソ田舎には帰りたくない。
またあいつらにバカにされる。
それだけは絶対にいやだと。
家賃を抑えるために古い風呂なしのアパートに引っ越した私は、
日々重い気持ちに押しつぶされそうになりながら、
歌を書き続けました。
なぜだか、歌はいくらでも生まれてきました。
ゴキブリやネズミが徘徊するそのアパートで
酒浸りになりながらも。
ある夜、ベッドに寝転んで見上げた天井に
蜘蛛が一匹這いまわっていました。
それがまるでその時の自分のように見えて、
また新しい歌詞が浮かんだのです。
このまま何も得ずに年老いて
死んでいく自分の未来が見えました。
誰からも気づかず、這い回っているだけの明日が。
黒い髪の少年
北から南へ ざらざらの風が吹く
うまくそいつに乗り切れず 別れが生まれた
丘の上にへたりとしゃがみ込んだ女は
声を殺して石のような目から涙を落とす真っ赤な夕暮れ時
旅に出れば もう帰ってこないと
その若さにしては重すぎる肩を揺らして
竜巻に巻き込まれていったペテン師に
全てを委ねて俯いたまま出ていった黒い髪の少年
人間なんて弱く脆く 風船みたいにしぼんでく
早いうちになんとかしなきゃ
さもなきゃ暖かい毛布をくれてやるさ
じめじめとした雨に打たれっぱなしで
使い古されてしまったが まだ間に合うだろう
天井を小さな蜘蛛が這い回っている
息を潜めて朝日が昇るまで膝を抱えてる青く暗い暁
彩るなら 赤く染め上げてくれ
嘘をつくならもっと上手についてくれ
コケにするなら太刀打ちできなくなるまで
だが覚えておけ 誰にもこの道を遮ることはできない
人間なんて弱く脆く 風船みたいにしぼんでく
早いうちになんとかしなきゃ
さもなきゃ暖かい毛布をくれてやるさ
乾いた大地がやがて雨でぬかるみ
歩き続けることが困難になった時
黒い髪の少年は諦めかけたが
それでもまた投げ出せすに歩き出したそうだ
細く長い道を