稲刈りの時期に田んぼの水が枯れる?|水始涸(みずはじめてかる)

こんにちは。
水墨画アーティストの八束徹です。

水始涸(みずはじめてかる)とは、
田んぼの水を干し始めるという意味です。

この稲刈りの時期に水が枯れるとは、
大変な状態なのではないでしょうか?
農夫達が春から一生懸命に育ててきた
稲は一体どうなってしまうのでしょう。

実はこれは意図的に行う、
水抜きのことです。

この記事では、その水始涸
そして今回描いた水墨画、

について話していきます。

10月3日から10月7日頃の七十二候は、
秋分末候 水始涸(みずはじめてかる)です。
二十四節気では、秋分(しゅうぶん)
その秋分を3つに分けたうちの 3番目(末候)です。

稲刈りの時期に田んぼの水が涸れる?|水始涸(みずはじめてかる)

水が枯れても田んぼは大丈夫なの?

水が枯れるというのは、
実際に水が干上がるのではなく、
稲刈りのために
田んぼの水を抜くということです。

稲が出穂(しゅっすい=穂が出ること)し、
一月以上すると、
穂はそのこうべを垂れて、
稲刈りの時期がやってきます。

その中間ぐらいに田んぼの水を抜き、
稲刈りの準備に入り
ます。
失敗は許されない最後の水抜きです。

その最後の水抜きのことを、
この七十二候は「水始涸」と表現して、
いよいよ稲刈りの時期が来たよと、
私達に伝えているんですね。

毎年やってくる台風を耐え抜いた
黄金色の稲穂が広がる様子は
まさに絶景です。
そして農家育ちの私には、
遠く離れた街の暮らしに、
言い得ない郷愁をもたらします。

農夫にとって、長い時間をかけて
大切に育ててきた稲が実った姿は
なんとも誇らしいもの
です。

その誇らしさは、今
お米が当たり前にあることで、
感謝を忘れてしまいがちな、
私達の食生活を根底から支えているのです。

年貢米〜年貢として納められていた米

七十二候が作られた江戸時代には、
年貢米というものがありました。
(*七十二候はもっと昔に
中国から伝わったものですが、
それを日本の気候に合わせて
変更を加えたのが江戸時代です)

古来より日本の戦は、
権力者同士の農地の奪い合いです。
稲作は常に歴史の中心にありました。

年貢米とは、その土地の農民が
その土地の支配者・権力者に納めるもので
今で言うところの税金です。

明治時代にその税が
米からお金に変わるまで、
農家の人々は作った米のほとんどを
年貢に取られ、

手元にはほぼ残らない状態でした。

そのため、彼らが主食にしていたのは
米ではなく、麦やひえ、
あわなどの雑穀だったのです。

江戸中期以降、収穫量が増え、
庶民に行き届くようになったそのお米も、
泥にまみれ足腰を痛めながら
それを作っていた農民自身の主食には
なり得ませんでした。

彼らは自分達で育てたものを、
自由に食べられなかった
のです。

そんな農夫達の心情に、
秋空の下の田園風景は
何を語りかけていたのでしょうか。

あくせく働く農民達には
年貢米を納める時期だと知らせ、
権力者達には年貢米を取り立てる
時期が来たと知らせる。

自然災害が巻き起こす飢饉
(ききん=農作物の大不作などによる飢え)
の際には、厳しい取り立てが
百姓一揆の原因にもなりました。

この七十二候・水始涸には、
そういった社会背景も
含まれていたのかもしれませんね。

そして時代は流れ、江戸幕府が崩壊すると、
ほどなくして年貢米は廃止されました。

その後文明の利器により
手作業が機械化されると
米の収穫量は大幅にあがり、
誰でも米が当たり前に食べられる世の中に
やっとたどり着いた
のです。

それが今では逆に、
米が余るようになりました。
ある意味、米が安く買い叩かれる時代に
舞い戻った
のです。

今、この七十二候・水始涸は、
農夫達にまた新しい苦悩と挑戦を
投げかけています。

七十二候を水墨画で描く〜水始涸(みずはじめてかる)

描いたのは孫生え(ひこばえ)が出た、
稲刈り後の茎です。

まだ私が小さかった頃の話ですが、
実家では稲刈りの時期になると、
我が家は家族総出で田んぼに向かいました。
そしてその作業がひと段落すると
田んぼのあぜ道に座り、
母の握ったおにぎりを頬張りました。

私はただはしゃいで遊びまわっていただけで、
ちゃんとお手伝いをした記憶は
正直なところありません。

ただその日、家族で集まって食べた
おにぎりの味と団欒の風景だけが、
今でも私の心に残っているのです。

そして年頃になると私は、
実家の稲作には一切関わらなくなりました。

「汚れたくない」と。

あれから数十年。

孫生えは伸びても何も実らせませんが、
人は別。
私は今でも自分を実らせるために
上を向いています。

まとめ

今回話したのは、

  • 七十二候・水始涸
  • 水墨画で描いた「水始涸」

についてでした。

次の七十二候は、
寒露初候 鴻雁来(こうがんきたる)です。

二十四節気は寒露(かんろ)に変わります。