雪舟は教科書に載っている|水墨画教室|小学生との対話

はじめまして。
水墨画アーティストの八束徹です。

とある秋晴れのうららかな午後。

日本水墨画美術協会からの依頼で、
師匠小林東雲先生とともに、
とある小学校へ
水墨画の出張授業に行ってきました。

ちゃんと「学校」に入るのが
高校卒業以来というくらい
子供と縁のなかった私が、
思いがけずそんな子供達の真剣な姿に
胸を打たれてしまったというお話です。

この記事では、
集まった生徒さんとの授業、
子供達の感性への感動、
教える楽しさ、難しさなどについて
話していきます。

書道用具をかかえた生徒さん達との対面

最寄駅からさらにバスに揺られて、
目的の小学校にたどり着きました。

他のお手伝いの先生方と合流後、
校長室で校長先生にご挨拶。

さっそく準備のために、
体育館へ向かいます。

すでに生徒さん達が、
それぞれの書道用具を持って
待っていました。

今回教える生徒さんは6年生。
担任の先生の呼びかけに応えて整列します。

あとから校長先生に聞いたのですが、
その担任の先生が今回の教室を開きたいと
申し出たとのこと。
生徒さん達を指導する姿には、
厳しさの中にも
子供への深い愛情を感じました。

私達も、授業内容を書いた紙を
ボードに貼り付けたり、
こちら側で用意した筆や
和紙を配ったり。

準備を進めて行きます。

集まった生徒さん達が、
小脇に抱えたそれぞれの書道用具。

「この道具で絵も描ける」

この教室が終われば彼らは
それを知ることになるのです。
そう思うだけでワクワクしました。

いよいよ授業スタート

子供達の学びへの意欲

さあ、いよいよ授業開始です。
まずは師匠が水墨画の歴史を
簡単に話します。

いきなり堅苦しい話から
始まったかのようですが、
この水墨画教室は
歴史の授業の延長とのことで、

水墨画を日本に広めた人は
誰かわかりますか?
の師の問いに、

「雪舟!」
とみんなしっかり答えていました。
立派ですね。

そして墨のすり方、硯(すずり)の使い方、
淡墨(たんぼく=薄い墨)の作り方、
和紙に淡墨で描いた時に起こる
水墨画独特の効果などを
教えていきます。

私を含めお手伝いの先生方は、
その間、生徒達のところを回り、
それぞれのやり方を教えていきます。

うまくできる子もいれば、
すぐには要領を得ない子もいます。
みんなそれぞれです。

それでも上手にやりたくて、
いろいろ質問してきてくれました。

やり方を深く話してしまうと
今回の授業だけでは時間が足りないですし、
このくらいでっていう加減が
難しかったですね。

ちなみに面白い効果とは、

これです。

淡墨に淡墨を重ねると、
あとから描いたほうが下にもぐります。

点が先に描いたものです。

「うれしい」「たのしい」「かなしい」「いかり」|墨で感情を伝える

次は、今覚えた淡墨と濃墨を使って、
喜怒哀楽の感情を、
和紙にぶつけていきます。

目に見えるものを書くのではなく、
その心の動きを墨で表現するのです。

まず師匠が用意した見本を見せるのですが、
これは私達でも難しい表現方法です。
どう教えればいいんだろうかと思いながら
生徒さん達の様子を伺っていました。

そしてこれが今回一番の衝撃
だったのですけれど、
みんなもれなく描けているのです。

それが「嬉しい」なのか、「悲しい」なのか、
パッと見てわかります。

その後もう一枚、
うれしいとかなしいの
どちらか好きなほうを描き、
隣同士見せ合い、
それがどちらを描いたのかを
当て合うゲームをしたのですが、
それもだいたいみんな
当たっていました。

それを描けるのも、
それが何がわかるのも、
感受性の柔らかさがあってのことです。

脱帽でした。

余談ですが、
「悲しい」を選んで描いた
生徒さんのほうが多かったのも
印象に残りました。

まあ、「悲しい」のほうが
より強い感情のように思えるから
選んだだけかもしれませんね。

師匠の実演と作品への挑戦

師匠が壇上で本格的な水墨画を描き始め、
生徒達は真剣なまなざしでそれを見ていました。

水墨画のライブパフォーマンス自体、
なかなか見れるものではありませんし、
とても新鮮に映ったと思います。

その間、私達は清書用の紙を一枚ずつ配ります。

今日の最後の授業は、
今回習ったことを踏まえながら、
それぞれが好きなものを一枚描きあげること。

師匠の描いた松の絵を
真似て描く生徒さんもいれば、
自分の描きたいものを描く
生徒さんもいます。

子供の感性で描かれた絵は
それはそれでひとつの完成品ですから、
それをなるだけ壊さないように
教えてまわりました。

やり方を少し教えたら
練習用紙に一生懸命練習する子もいれば、
一方では、一気に本番を描きあげたり、
何を描くか決められなかったり、
妙にセンスの高さを感じたり、
うまくいかなくて
悩んでいる姿もいじらしくて、

白黒だけだと思われがちな水墨画ですが、
それぞれがそれぞれの個性を放って、
ひとつひとつ違う色が
そこにはありました。

これからもまだまだたくさんあるはずの
大切な思い出のひとつとして、
その絵も手元に残ることを
願うばかりです。

教室を終えて

教えに行くと、やはり反省点も出てきます。

自分もさらに学ばなければ
という気持ちになりました。
もっと上手に教えられるようになるためには、
もっと上達しなければなりません。

道に終わりがないことは、
嬉しいことでもありますけれども、
人の想いに応えるということは
簡単ではないことも改めて感じました。

まとめ

今回話したのは、

  • 生徒さん達との出会い
  • 授業内容について
  • 教室を終えての思い

です。

帰りの電車に揺られながら、
こんな想像をしていました。

生徒さん達が今日の教室のことを
担任の先生や友達、
家族などに話している姿です。

「楽しかったよ!」
「またやってみたい!」

そんなふうに言っていてくれたら
いいなあ、と。