【孤独の歌】自作の歌詞とその背景を綴る第15話〜フィリカ

十字架に磔にされながら見た霧の景色

フィリカというのは花の名前です。

フラワーアレンジメントの脇役に使われたりする花で、
目立たないけれど、主役に寄り添う優しい花。
学生時代に恋をしていた女性に、
私が勝手に持っていたイメージです。
恋に恋する子供が
「きっと彼は彼女はこういう人」
というふうに相手に夢を見るような。

その後、同じタイトルの歌を書き、
そっちのほうをよくライブで歌っていましたが、
そのフィリカは今回の歌を書き直したものです。

20代前半の頃、捨てた気でいた過去にこだわり続けていた私は、
東京に来て数年経過してもまだ、学生時代の夢を見て
うなされていました。
こだわり続けていたというか、
消したくても消せないのです。

逆側の人間は「昔のことじゃん」と
簡単にヘラヘラ笑いながら言いますが、
心の深いところに根付いてしまった痛みは、
簡単には消えません。
深層心理に染み込んだものを、
上手に消せる掃除用具などないのです。

夢の中でも相変わらず私は疎外感にさいなまれて、
現実との区別はありませんでした。

自分の居場所などどこにもない教室で、
私は所在なげに下を向いて自分の机に座っていました。
私にだけ強い重力がかかっているのではないかと思うほど、
体も心も重く、誰とも目を合わせないようにする日々。
淡い恋心すら否定されて、私には恋愛をする資格もない。
何故かって、そんな嫌われ者が誰に何を望めるでしょうか。
相手も同じように惨めな想いをするだけですから。

私は、拷問を受けているかのような毎日を
ひたすらにじっと耐え続けていました。
こんなにつらいのに、更に輪をかけて私を嘲笑う連中。

また苦しみが増していく。

何度も、一人一人を横一列に並べて、
ピストルで撃ち抜く妄想をしました。
粋がって強気に押し切れば自分達に都合のいいように
なると思っている足りない頭に銃口を当てて。

地震で断層がずれるかのように、
私は周囲と噛み合わなくなっていました。
今になれば誰もがみんな少しずつズレているものだとわかりますが、
年頃の、
自分はズレていない、
みんなと同じだと思っている、
もしくはそう思いたい

といった多感な同級生達からは、私は一緒にされたくない
関わりたくない存在であったことは間違いありません。
そんな嫌われ者は十字架にかけられて、
足元では炎が黒煙をあげていました。
長く想い続けていた彼女が、その当時の姿のまま、
他の連中にまぎれて、私を見ていました。

助けを求めると、助けた人が次の標的になります。
だから私は黙っていました。

実際、夢の中の彼女は、もうすでに
私の中で作り上げられた女神であり、
私を十字架に吊るした連中も、そこでは、
同じように作り上げられた悪魔であり、
現実とは似て非なるものでした。

ただの遠ざかった過去。
しかし、水に流すには口惜しい。
とても、寂しくて、悲しくて、暗くて。
私は汗だくになりながらも、
少しだけ温かい気持ちで目を覚ましました。

彼女が夢に出てきてくれたからです。

私は古い恋心の余韻に浸りたくて、
また目を閉じました。
そしてもう一度目を開けると、
目に映るのはボロアパートのシミだらけの天井だけ。

寝て見る夢は、夢でしかなく、
生きるべきは現実の世界だったのです。

フィリカ

目の前に広がるのは 白くて陰鬱な空間だった
僕は強制的にそこに放り込まれた
何も知らずに笑う無知な連中がそばにやってきて
僕を何か妙な具合にしようとしていた

僕は時期よく現れた ひどく好都合な標的だった
一度気を許すともう限度がなかった
最初は良かったが やがて散々な結果を迎えた
君は僕の寂しさを知っていてくれただろうか

1秒を刻む時計の針さえ 
地獄の鐘の音に聞こえていた
ああ今すべては闇に葬られて 
もう二度と戻ることはない 

支配者は得意の手口で 僕の視界を遮ろうとした
そして肩は重くなり 身動きすらできなかった
僕は炎に焼かれ それを消し去る一滴の水もなく
半ば死にかけて 十字架に吊るされていた

見上げるいくつもの口から非難と同情の声が上がったが
結局最後まで 晒し者のままだった
そして解放されるべき日がやってきた時 もうすでに僕は
君を遠い丘の上の幻のように見ていた

僕は裸足のままで必死に逃げた 
まだ燻り続ける焼け跡の上を
ああ今すべては闇に葬られて 
もう二度と戻ることはない

流れる時間の中で過去は償われていくそうだ
あまりにも当然のように許されていくそうだ
心無い人よ もし僕の傷口を覗きたいのなら
あなたのお気持ち次第でご覧に入れますよ

それにしても気がかりなのは あの日君が僕に対して
何か言いたかったんじゃないかと思うんだが
僕が汗だくになって見る夢の中に連中が出てきても
君が優しく抱きしめてくれたりすることは一度もなく

もし君が目の前に現れて 
あの頃のように笑いかけてくれたら
ああそれが例え夢の中だとしても 
きっと僕は泣いてしまうんだろう

きっと僕は泣いてしまうんだろう