【孤独の歌】自作の歌詞とその背景を綴る第10話〜ウェディングデイ

故郷から届いた一通の手紙

月いちのライブ活動を始めてしばらくした頃、
中学生時代に仲の良かった女性から、電話がありました。

バスケ部の試合で知り合った他校の女子です。

一応中学生時代はバスケ部でした。
先輩に強引に勧誘されて入った的な。
サボってばかりだったので、万年補欠でしたけども。

その子とはお付き合いとかいう関係ではなく、
気が合う友人という感じで、電話で
いろいろ話したり相談したりされたりしていました。
当時は家の電話しかありませんでしたから、
よく私宛に電話が来る女の子として、
母親も名前を覚えていたんですね。
私に、東京での連絡先は誰にも
教えないでくれと頼まれていた母も、
この子なら私も嫌がらないだろうと、
電話番号を教えたというわけです。

その子もあまり器用じゃないというか、
なんとなく周りから浮いているようなタイプで、
おそらく私に対して似たようなものを
感じとってくれていたのかもしれません。

私自身が変わり者なので、
昔から特にそういうタイプの子に
違和感を感じることはなく、
むしろみんなの輪にうまく入れている人達に、
違和感を感じていました。
彼女に関してとかではなく、私が仲良くする人に対して、
なんであいつと仲良くしてるの?
と言われることが結構ありました。
相手も同じことを言われていたかもしれませんけどね。

そして、周りの目を気にして
自分はそう思われたくない
というずるい感情があったことも事実です。
中途半端にどっち側にも距離を置いてしまう
ダサい面がありました。
そうするとどっちも守れないのです。

かっこわるいですね。

高校に入ってからの私は、退屈な学生生活を
どう過ごすかで頭がいっぱいでしたから、
誰とも深く関わらず、やり過ごし、
早くこの日々から逃げ出したい。
そんなふうに自分のことばかりで、
だんだんと彼女と連絡を取ることも減っていきました。

彼女は彼女でいろんなことがあったんだと思います。

時々、彼女の噂話を耳にしましたが、
心配して電話のひとつかけてやるわけでもなく、
ただただ、聞こえないふりをしていました。

私がもっと強ければ、彼女の悩みや寂しさや悲しみを
癒すことができたかもしれないと、今でも情けなくなります。


久しぶりに話した彼女は相変わらずで、
私が東京でどうしているのか、
ちゃんとやれているのかと、気にかけてくれました。
そして彼女の恋愛話などに、
たった数年前の電話での会話を懐かしく思い出しながら、
耳を傾けました。
私は自分のことで頭がいっぱいな東京暮らしを
打ち明けただけでしたが。

彼女は子供ができて結婚することになったんだよと、
嬉しそうに話していました。
優しい彼が見つかったんだと。

そんな彼女の話から生まれた歌が、この歌でした。

それ以降はもう連絡は取っていません。
故郷を忘れて東京で新しくやっていくためだと、
また距離を置いてしまいましたから。
責任ある生活を手にした彼女にとっても
そのほうがいいと思っていました。
しかし振り返れば、それで都合がいいのは
私のほうだけだったかもしれません。

その後、一通だけ手紙が届きました。
家族からしか届けもののなかった、
私の一人暮らしのアパートに。

そこには、今までの感謝と、
東京で、ライブいっぱい頑張ってね、
と綴られていました。

彼女が幸せにやっていることを、今でも強く願っています。

この歌を書いたことはもちろん、
伝えてはいません。

ウェディングデイ

夜が更けて 街はとても綺麗だ
車も滅多に通らないし しばらく道端に寝転んでいられる
君は一人 橋の上に立って
今じゃ遠い記憶に変わったあの夜の口づけを思い出していた

時がこうも簡単に過ぎることが
なぜここまで辛いのだろうか そしてなぜ今では悲しいのか
メンソールを一本取り出して
これが最後だと火を点けると時間通りに恋人の車がやってくる

夜はあまりにも神秘的だった
そしてその先はひどく危険だった
だけどそのことは 忘れなくちゃならない
どうしても明日のウェディングベルまでに

車が今 暗闇を突き抜ける
天使が決して笑わないことをとっくに知ってしまっている君を乗せて
運転席の恋人は必死に
君がまだ見せていない深い心の底を知ろうと喋り続けている

君は笑い なにも隠していないと
話すべきことは全て話したと心の中でそう呟いてる
ただあの夜 道を選んだだけ
若い頃に輝いて見えた光を追い続けようとしなかっただけ

夜は今だって そこにあるけれど
君の居場所なんてない 追い出されてしまうさ
だからそのことは 忘れるべきなんだよ
どうしても明日のウェディングベルまでに