【孤独の歌】自作の歌詞とその背景を綴る第7話〜new daddy’s song

ウイスキーと受話器の向こうの友の夢

高校卒業を機に故郷で別れた友人とは、
上京後も、よく電話で話していました。

彼も故郷を離れていました。

私といえば、会社をやめて、バイトで食いつなぐ日々。

絵が音楽か。

この時はもう、音楽だけをやろうと決めていましたが、
ひとりで暮らしを立てていくことに気持ちが負けてしまっていて、
まだ部屋で歌を歌うくらいのことしかできていませんでした。

やったことといえば、かろうじて数回
デモテープをレコード会社に送ったくらいでした。
審査の通らないデモテープを。

私達は、この時期しょっちゅう長電話をしていました。
お互いの近況、
お互いの仕事の話。
恋の話。

そして、「あの頃の思い出話」。

私は東京に来たというだけのことで得意げになって、
一度行ったことがあるだけの場所について
わかったように話してみたり。
得意げになって、というより、
かっこつけていたというほうがあっていますね。

そして、愚痴。
相変わらずわかったようなことをまくし立てていました。


その友人はほどなくして、
父親になりました。
家族を持ち、その上での未来の話を
私にもしてくれました。

自分がどう生きるかしか考えていない私には
考えられない決断でした。

家賃すら遅らせるようなギリギリの暮らしをしながら
売れない歌を書いていた私とは、
天と地ほどの距離を感じました。

そして、次のステージに
行ってしまったなという寂しさも。

私は自分が親になる未来など、
全く思い描いていませんでしたし、
もし神様がいるとしたら、それ以前にきっと
当時の自己中な私には子供を授けることはなかったでしょう。

泥酔しながら、そんな友人の新しい夢に
耳を傾けた夜のことを今でも覚えています。
私には想像もできない不安も抱えていたでしょうし、
重たい責任に押し潰されそうな夜もあったでしょう。

しかし、家族を守るためにすぐに実家に戻り、
新しい事業を始めたその友人の覚悟を、
しっかりと子供を育て上げた男としての背中を、
そしてそんな男の友人であることを、私は誇りに思っています。

ひたすらに自分の狭い世界の中で生きていたあの日の私に、
彼へ贈ってやれるものは、この歌だけでした。

new daddy's song

狭い部屋で受話器を耳に当てお前の声を聴く
グラスの氷が溶け出してカラカラと音を立てる
こうして思い出に浸るのはたまにだからいいもんだ
今夜もこの街の風は相変わらず冷たいけど


お前はこれからのことをいくつか語りながら
考えている子供の名前を嬉しそうに語りながら
俺もとうとうオヤジ臭くなっちまったなんて言ってる
俺はお前の幸せを少しでも感じたい

new daddy's song
そんな苦しみは無意味だろう
new daddy's song
遠く離れた街角で

簡単に諦めちまいそうなものをしぶとく追いかけて
お前ってやつはいつだってまっすぐに進む
きっとこれから先もお前の声を聴いて
何度も元気付けられていくんだろう

狭い部屋で受話器を耳に当てお前の声を聴いてる
グラスの氷が溶け出してカラカラと音を立てる
俺達の道はいい方向へと導かれていくのさ
たとえ激しい痛みを伴うことになっても

new daddy's song
そんな悲しみも消えていくさ
new daddy's song
遠く離れた街角で

new daddy's song
この寂しさも消えていくよ
new daddy's song
遠く離れたこの街で